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あのベルを鳴らすのはあなた

校舎と校舎をつなぐ廊下はすでに西に傾いた太陽の光が斜めから差し込み、窓の影が長く伸びている。僕と委員長の松尾はその先の暗闇にある職員室を目指して歩いていた。僕は少し後ろから、隣の松尾の姿を眺めた。坊主頭の松尾は指先を伸ばして、まるで運動会の入場行進でもしているかのように胸を張って歩いている。僕は思った。「俺がこいつだったら、どんなにいいだろうか」
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突然学校全体の響いたベルの音に生徒達は何が起こったのかわからずに右往左往している。が、僕の頭はまるで霞がかかったように真っ白だった。ベルの音も聞こえるし生徒達があわてている様子も感じているのだけど、なんだか身体がやわらかい膜に覆われて空中に浮かんでいるような気がして、現実味がない。

松尾は職員室のドアを開けた。中にいた教師達のほとんどが一斉にこちらのほうを見た、中には横を向いて口の前に手をかざしナイショ話をするように隣の教師に何か言っている人もいた。松尾は真ん中の通路をまっすぐ行進し、教務主任の若林のところに行き告げた。「先生、甘利くんをつれてきました。」

ベルは鳴り続けている。下校前の掃除の時間だった学校では担当の場所に行って清掃作業を行っていた生徒が一斉の廊下に出て、大騒ぎになった。教師たちは皆に落ち着くようにと言っている。そんな中、僕だけが壁の方を向いて放心状態で佇んでいたのだ。ほどなく僕の姿を見つけた生徒の一人が、「もしかして、甘利じゃないの・・・」と周りの生徒に話し始めた。

「一緒に来なさい」と若林教務主任は言って、椅子から立ち上がり僕達の前を歩き始めた。松尾は「はい」と言ってついていった。僕の頭はまた真っ白になった。6年を過ごす小学校でいったい何人の生徒が”あの部屋”に入ることがあるのだろうか?普段は全校集会のときに遠くの壇上で話している小さな姿しか見ることのない人がいる部屋に。歴代の学校の長の写真や絵が部屋にたくさん掛けてある部屋に。

いつも気になっていた。僕の教室と隣の教室を分ける柱の向かい側にあるあのボタン。真っ赤なお皿ほどの大きさの円形の金属板の中央にある丸い空間とその内側にある黒いボタン、そしてその空間を覆っている透明なプラスチックと表面に書いてある「ここを強く押す」と言う文字。

近くで見るとその人の顔はすごく大きかった。「あまとし、君がなぜここに呼ばれたのか説明しなさい」と校長先生は言った。校長が自分の名前を読み間違えてるのはなんとかわかったがもうすっかりビビッていてとても「僕は”あまり”です」とは言えない。それからのことは緊張しすぎていてあまり覚えていないのだが、おそらく自分がいたずらで非常ベルを押してしまったこと。今はとても反省していて、二度とこのような事件は起こさないことを約束したのだと思う。

僕はついにその透明のプラスチックの上に人差し指を置いた。そして徐々に力を入れていった。ベルを鳴らそうという気は微塵もなかった。ただ、どれぐらいの力で押せばそのプラスチックがどうなるのかを感じたかった。「パシャッ!」乾いた音と、薄いプラスチックが自分の指の下で割れる心地よい感覚にとらわれた直後、「リリリリリリリリリーン」と耳を劈くような音が響き渡った。

「すみませんでした」とクラスを代表して校長先生に頭をさげる松尾の頭の両脇に広がった大きな耳を見て、僕はぼんやりと考えていた。「自分もいつか委員長として、事件を起こしたクラスメートと一緒に校長室に謝りに来ることもあるのだろうか」と。

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