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ひょんなことから知った、いい話

彼女に初めて会ったのはもうかれこれ20年ちょっと前のこと。おいらは当時学生で、アルバイトで塾の講師をやっていた。彼女は受験を控えた中学3年生だった。身長が170cm近くあり、ボーイッシュなショートカットに大きなべっこう縁の大きなめがねをかけていていつもジーンズを履いていたので、だまっていれば本気で男の子と間違うのではないかという気がしたものだ。実際、運動能力は女子の中では飛びぬけていたようで男の子に混ざってサッカーやバスケットボールなどをやっても、充分に活躍していたらしい。そんな彼女の当時の夢はプロテニスプレーヤーになることだった。

勉強のほうはおせじにもあまりできるほうではなかったが、結局彼女はテニスの推薦で私立の名門女子高校に進学、自らがキャプテンを務めた3年生のときにはインターハイで団体優勝を飾った。そのときおいらはオーストラリア遊学中であり、日本から彼女が嬉々として優勝を伝える手紙を受け取ったのを鮮明に覚えている。

日本に戻ったおいらは東京にある会社に就職しアパートも彼女の自宅のある三鷹に借りて交際をつづけていたのだが、お互いの若さもあり結局は別れることになった。恋愛感情のなくなった後もたまに一緒にスキーに行ったり、飲みに行ったりしていたのだが、おいらが三鷹のアパートを引き払って別の場所に引っ越したあとは会うことも無くなり、おいらの恋人が1人、2人と変わるたびに彼女とのことは完全に過去の思い出となっていった。

3年ほどが過ぎ、おいらが上海の大学で語学研修をしていたとき、大学の寮に突然彼女から電話がかかってきた。中国に行っていることは当時、すでに音信の途絶えていた彼女には知らせていなかったのだが、実家の両親に連絡をとって訊いたらしい。簡単に言えば、彼女はおいらともう一度やり直したいということだった。しかしおいらは当時付き合っていた人がいたので彼女の申し出を断ることにした。「あ~あ、もう一度会えると思っていたのにな~」とつとめて軽く受け流そうとする彼女の言葉に心が痛んだのを覚えている。その電話の会話の中で、彼女がプロテニスプレーヤーになるのをあきらめ料理人になるつもりだということを知ったのだった。

さっき何気なく、彼女の名前をグーグルの検索窓に入力してみた。あるヒューマンドキュメンタリー番組で彼女をテーマにした放送分があったのを知った。現在彼女はイタリア北部のある地方で当地の料理のコックとして活躍している。かの地の郷土料理の普及に情熱を燃やす、現地でもっとも有名な日本人で、イタリア人に郷土料理の手ほどきをするまでになっているらしい。


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